現代では見た目のインパクトや印象にスポットが当てられ、装飾としての意味合いが強くなった提灯。
お店の前はもちろん、ご家庭でも飾られています。
しかし、提灯の真価が発揮されるのは、灯りが灯った時ではないでしょうか?
本来、提灯は暗い夜の闇を照らす為に生まれたのだから当たり前の話ですよね。
ただ、現代では火袋の中に電灯を入れて、灯りを灯す事が主流となっています。
もちろん昔は電気などないわけですから、ろうそくが主流だったと思われがちですが、それがどうやら違うようです。
ろうそくが使われる以前の提灯燃料とは?
提灯が広く使われだしたのは、江戸時代に入ってからです。それ以前は手軽に持ち運べる照明器具はなく、無理やりに据え置きの行燈を手持ちしていたりしました。
参考記事|行燈・太夫・馬上・龕灯!これすべて手持ち提灯の名前です!
提灯が本格的に使われだしたのは、江戸時代も中頃に入ってからだとされ、庶民であっても夜道を安全に歩ける様になったのだとか。
現代から見れば、ちょうちんの灯りなんて随分と微々たる物ですが、月明かりに比べれば明るく感じられたでしょう。
そんな頼もしい提灯の燃料には、当たり前にロウソクが用いられていたと思いがちですが、そんな事はありませんでした。
当時の資料によれば、提灯の燃料として主に以下の物が使われていました。
提灯の燃料
- 魚油|魚類から取れる油
- 植物油|植物の実や種から取れる油
- 蝋燭|和・様・改良型と時代ごとに存在
魚油や植物油を含め、江戸時代に提灯の燃料として使われていた代用品は、今でも生活の中で密接に関わっています。
これはつまり、昔から生活の中にあった燃料素材を上手く活用していたと言う事が言えます。
続いては、提灯の燃料として活用されていた、素材の事を深く触れていきましょう。
魚油ってなに?現在では◯◯食品に様変わり!
魚の油と書いて、ぎょゆと読みます。
魚油の素材として、どんな魚が使われていたのかと言えば、庶民でも手頃な価格で入手出来た魚から抽出される物が全般でした 。
- 例えばイワシ
-
古くから大衆魚として、庶民の胃袋を支えてきました(最近では漁獲量の減少により、高級魚と呼ばれることも・・・)。
イワシには良質で豊富な油があり、提灯の燃料として使いやすい魚油を持っていました。
- そしてクジラ
-
今でこそ信じられませんが、昔は江戸の近海でもクジラ漁が行われており、クジラのお肉は庶民に親しまれていました。
クジラも豊富な油を蓄えている事はご存知の通り。燃料として使うのは至極当然の話です。
この他にも様々な魚の油が燃料として使われていたようです。
魚油の特徴
魚油は江戸時代当時、非常に安価に入手できたものであり、庶民が提灯や行燈を使う上で扱いやすい物でした。
一方で、臭いは独特のものがあったそうです。また、煤が溜まりやすいデメリットもあったとか。
この辺に関しては、ツナ缶一つ買ってくれば、手軽に実験ができます。
現代の魚油
現代では江戸時代よりも地位が高くなり、もっとも有名な使われ方として、サプリメントのメイン素材になっていたりします。
この他、マーガリンに混ぜられたり、固形石鹸の材料としても使われています。
また、養殖魚の栄養として、魚油は活用されています。
用途として大きく様変わりした魚油ですが、現代でも私たちの生活に関わっている事が分かりました。
植物油ってなに?現在では食用として不動の地位を築いた!
当時、植物油の代表格として語られていたのは菜種油です。
これは現在、料理に広く使われている物であり、一般家庭でも気軽に買える油の一種。
しかし、江戸時代の頃は、菜種油と言えば非常に高価な物でした。
庶民が気軽に購入できるものではなく、今で言う上流階級に属する人のみ使えた提灯燃料だったようです。
魚油との違い
植物油と魚油。この両者の一番大きな違いは、何と言っても価格です。
綿実油が出回るまで、植物油は最高級品としての地位を築いていました(綿実油が出回っても魚油よりは高級)。
また、魚油にあった気になる臭いが大きく軽減されました。
現代の植物油
現代では主に食用として活用される植物油は、昔と違いお求め易い価格となっています。
ちなみに江戸時代の頃から食用として使われており、自然淘汰された結果の使われ方なのだと言えます。
綿実油の流通
菜種油はとても庶民には手の出ない高級な提灯燃料でしたが、綿実油の生産量が増えたことで、植物油自体は庶民にも扱える物となりました。
この綿実油は幕府の政策として綿の生産量増加に合わせて、流通が拡大して行ったようです。
提灯の燃料として、もしかしたら一番大きな変化があったかもしれない植物油。現在では、毎日の生活に欠かせない物となっています。
和と洋の違いは?2度の変化で今に繋がったろうそくについて
提灯の燃料として、もっとも絵になるろうそく。
実際、ちょうちんの燃料として活動したのは、それほど昔ではないのかもしれません。
その昔、海外から輸入されてきたろうそくが、日本では重宝していました。
しかし、現代の様に輸入品が安いなんてことはなく、魚油や植物油と比べても遥かに高いもので、然るべき立場の人しか使うことが出来ませんでした。
この状態を改善する為に取られた手段が、国内で行われていたロウソクの生産量増加です。
和と洋のろうそくはどう違う?
和ろうそくは櫨の実(はぜのみ)から抽出された木蝋を原料にして生産されていました。
灯芯には、和紙やいぐさの髄を利用しており、その製法は現代でも受け継がれています。
和ろうそくの特徴は輸入品と比べ、明るい上に長時間灯す事が可能でした。
なお、現代では和ろうそくの方が輸入品に比べて高級品となっています。
2度目の変化
輸入品から国内品へと、提灯の燃料として使いやすい形にろうそくは変化をしました。
しかし、まだまだ庶民が日常的に使うには、高価な物であり、使う人や使われる場面が選ばれる物だったわけです。ここで、2度めの変化が起きます。
それは原料に魚油などを混ぜて作ることで、より生産量が増え、価格を安価にする事に成功したわけです。
その結果、庶民が日常的にろうそくの灯りを、提灯に灯すことが出来るようになりました。
ここで初めて、提灯の燃料はろうそくであると言う流れになったと言えるでしょう。
提灯の灯りとして蝋燭が定着するまで、長い時間がかかりました。
その灯りは穏やかで、電灯にはない優しさに包まれた光です。江戸時代に生きた人々が見てきた光を今も見ることが出来る。その手段として、気まぐれで提灯にろうそくを灯してみてはいかがでしょうか?
※火気を使用する際は、安全に十分配慮して下さい。